それまで金メダル20個取っていたが、モスクワオリンピックから変わって、今日のル ールになった。短い時間で大きな点数を取った方が勝つ。当然、大技が出なければ勝てな い。1点ずつではすぐ逆転されてしまう。大技を出すには相撲やプロレスみたいに大きな 技を出さなければならない。時代の流れに遅れたことが日本レスリングを後退させたと思 う。
 鶴田:その変化はレスリングの魅力を取り戻す変化といってもよいのですか。  笹原会長:そうである。なぜ変わったかというと、国際連盟FILAが、テレビやマスコ ミに出ない人気のないスポーツは外して、新しいスポーツを入れようとする。こういう時 代の流れを批判するばかりでなく、対応もはかっていかなければならない。そういう意見 が日本オリンピック委員会(J.O.C.)の中にも出てきている。今、マスコミでも日本オリ ンピック委員会でも、五輪マークの権利を民間の会社に電通とアディダスが共同出資して 作った会社(AS)に販売している。各国も勝手に五輪マークを使えない。五輪マークの権 利代を払っているので、それにはテレビに出るスポーツを選ばなければならない。そんな ことから野球やバスケットボールにプロを入れてくれとなってきたのである。
 今、オリンピックは昔と違い、各国オリンピックが選手を推薦しても選手村(1万人) に入りきれない。したがって制限しなければならず、オリンピック委員会(I.O.C.)が各 国に人数を割り振っている。日本レスリングなら各級20名と割り振り、欧米では強さに したがって人数を割り振っている。しかし、このように制限しても、なおかつ今回のオリ ンピック選手村のように収容できないのが現状である。役員を入れて、1万5千人であっ た。参加者の増加は敏感にオリンピック予算に影響する。レスリングも予算獲得に貢献で きる種目でありたい。
 今日ではテレビ点数が取れないスポーツは面白くないし、テレビも放送しない。見てい る方がつまらない。そこで受けるのがプロである。大技がどんどん出るプロのレスリング を見ても芸術のように楽しい。アマチュアと違い、相手の技を取ってあげる。このために スポーツの芸術性はプロの方が高い。アマにはそれがない。どんどん技でも型でも出せる ようにするためにはプロの中にアマが入ってくことだと思う。そうした改革がなければよ くならない。
 現在のアマレスの組み手、にらみ合いだけでは近代スポーツから立ち遅れてしまう。そ こで国際連盟も長い間対応策を検討してきたのである。問題意識を持っている。試合時間 を短くして大技を出して大きく勝つ。
10点差で終了する。ルールをこのように思い切って 変えたのである。レスリングは短時間に大技を出して、パフォーマンスをやる。それが生 き残る基本施策である。
 鶴田:日本が立ち遅れている原因と、これからどういう対応を考えているかについて伺 いたい。
 笹原会長:身体を作ることは基本である。レスリングは人間の発育、発達の中で身体を 作っていくのに最高のスポーツである。筋肉を作る、運動神経を作る、人間を作る。これ が人間の最高の財産になるからである。これは科学的に全部証明する資料がある。私はこ う確信を持っている。それをまず指導者が選手に教えなければならない。それには指導者 を作るということである。
 鶴田:1つに指導者を育成するということ。2つめに教育プログラムを作ること。3〜10 歳までのちびっ子レスリングを盛んにする。次に15歳までの中学プログラム、18〜20歳 までのジュニアレスリング、それからトップとシニアレスリングに分ける。このような選 手を作るためには一貫した考え方を持たなくてはいけない。親は子供の将来まで考えてレ スリングを教える。そういう一貫した考え方の指導者を作っていかなければならない。
 それには指導者の講習会を開かなければならない。一般にはまだ体育系の先生が多いが、 必ずしも経験がなくてもよい。3つめが施設を作ること。この3つが揃わない限り、よく ならない。どんなスポーツにとってもこれが基本である。
 鶴田:古代ギリシアではレスリング単体の競技者と、5種競技の中に入っているレスリ ング競技者の2つがあった。5種競技の方が古代ギリシアの芸術のモデルになり、彫刻や 絵になったのではないだろうか。1種目で育った競技者の筋肉の場合は、芸術的魅力に偏 りが出てくる。エンターティメントは入っているが、スポーツ本外のあり方、本質的価値 から離れてしまう。互いに補完しあう他の種目との関連づけが非常に大切だということに 気づいたのではないだろうか。ここがポイントなのではないかと考えている。
 そのことに世界も日本もまだ気づいていない。もう1度レスリングでプラトンが優勝し たり、アリストテレスがレスリングは素晴らしいと述べているように、古代ギリシアのそ れは、5種競技の中のレスリングを再評価する必要があるのではないだろうか。そういう 方向もこれからどう見直していくのか、可能性があるのではないかと思っている。
 笹原会長:私が子供の時は、強い選手はいろいろなスポーツを季節に合わせてやってい た。仲間と相撲、柔道、剣道、水泳、マラソン、木登り、取っ組み合い、など自然の中で 遊んで身体を鍛えていた。その中から自分に適した種目を選ぶことができた。そのオール ラウンドのあり方が今一番欠けているし、そこに日本のスポーツの弱さがあるのかもしれ ない。
 鶴田:私も子供の時のスポーツ種目経歴が非常に豊富です。これが自分のレスリング能 力を高めたと思う。もう1つはなぜ今10種競技が陸上競技の華と言われているのか。や はりその起源は古代ギリシアの5種競技にあるといってもよいと思う。
 1種目で作った身体は偏っている。5種競技で作った身体が、バランスがとれて芸術的 に美しい。したがって、1種目のレスリング選手の作った身体よりも他種目で作った身体 の方が美しい。そこで、近代10種競技の中には入ってないが、その中にレスリングを入 れることも検討してみてはどうであろうか。
 笹原会長:今、近代10種競技があるが、レスリングが入ってない。そういう組み合わ せをした公式競技、例えばトライアスロンとか、その中にレスリングを入れることは画期 的なことであり、その可能性はあると思う。我々がそういうプログラムを作り上げること である。基本的な人間の動作の走ること、跳ぶこと、投げることを組み入れたプログラム を作る。その中にレスリングを入れる。
 そうすれば日本人の体力はもっと上がる。興味深いアイディアである。それではどうい う組み合わせにするか、我々も協力してプログラムを作り上げたい。レスリングを入れた 他種目の組み合わせが今までなかった。そのプログラムを交際連盟FILAに提言したい。 非常に素晴らしいことである。私たちも精一杯協力したい。私も大学生の時、柔道に参加 したり、相撲の選手と試合をやった経験がある。
 鶴田:ヨハン・ホイジンガが現代スポーツは二流である、それは芸術性がなくなってし まったからである、と批判している。どう芸術性を取り戻すか。古代ギリシアを見るとレ スリングの芸術作品が多い。身体の美しさ、連続動作の美しさ、それはレスリングが極み である。こういうことであったのだと思う。従って、他種目のスポーツ選手から身体美が 生まれ、その作品例がレスリングだったのだと思う。私は中央大学の理事長、中央大学の 先生方から、中央大学にいつか戻り、中学、高校、大学一貫でスポーツ振興を図るモデル を作れないかとアドバイスを受けている。スポーツを詩や彫刻を作る。またスポーツが他 の分野にどんどん入っていくようにしたい。
 私はその場合にこうしたスポーツ文化風土の中で古代ギリシアではレスリングが中心で あったのではないかと思う。このようなシステムを作ろうとすると、指導者を育成する仕 組みは、最近の研究ライセンス付与よりも、もう一度大学に戻して総合教育の中で、例え ば中央大学のような生涯学習システムのある環境の中で指導者を育成することではないか と考えている。私は筑波大学でのこういう研究成果を契機にしながら、もう一度レスリン グの世界を大学に関連づけてみたいと思っている。
 笹原会長:活動の場としたらそれが一番いいと思う。中央大学は私の母校でもあるし、 バック・アップしたい。スポーツ振興全体の大きな組織を改革することは難しい。中央大 学のようなところが原点にたったモデルを作れば、そのインパクトは確かに大きい。例と して、中央大学の水泳が素晴らしいコーチを迎えて、素人の選手をみんな強くしている。 これにはみんな関心を寄せている。前例としてはバレーボールもそうであったが、私達も 教育の仕方やプログラムの方法を勉強しなければならない。中央大学のレスリングも弱く なってしまったが、システムのあり方によって変わってこよう。
 鶴田:筑波大学の大学院に来て見て各種目の先生はいるが、スポーツを総合化して捉え る先生があまりいない。そこで始め私は運動の動作分析を修士論文にしようとした。しか し机に向かうと気持ちがのらない。なぜか。それは私のような経験をした人間がレスリン グの魅力を総合的に研究するには大学院のコースが専門家しすぎているからである。私の 場合は指導教官の竹内教授の理解をいただき、ジャンボ・鶴田自身を学術的に研究するこ とができた。
 笹原会長:いま大学の先生方も論文を書けば書いたで終わりであり、成果が活かされな い。自分の信念をいかに現実に活かすか。そこが大切だと思う。アイディアをいかに生み 出して、現実化するか。それには小さくともモデルを作ることが効果的である。小、中、 高、大学そして社会人と通してのモデルがあるとわかりやすい。

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