第4章 わが国のレスリング振興政策私案
―プロアマの交流として笹原レスリング会長インタビューをもとにしてー
 

鶴田:私の人生を振り返って、プロレスからアマチュアレスリングを捉えた時に、アマ チュアレスリングが直面する問題が非常に多い。正解の中には古代ギリシアのように国の 伝統文化としてレスリングのある国があるのに、日本はいつのまにかアマチュアレスリン グが衰退してしまった。どうすれば、もう一度ギリシアのような芸術としてのレスリング に再生できるか。
 これが私の修士論文のテーマであるが、それにはプロレスの世界でやったいろいろな経 験がアマチュアレスリングの世界に役立つのではないかと思っている。それはかつて八田 一郎会長からアドバイスを受けたことでもある。それなのにアマレスとプロレスの溝が大 きすぎる。もちろんそれにはプロレスの方も改めなければならない点が多い。
 その第一は国民が抱いている偏見や、マスメディアが抱いている偏見を正す努力である。 自分が闘ってきた一番のプロレスの本質的価値はアマチュアレスリングにも共通 すると思 う。しかしアマチュアレスリングの人達はそれを理解していない。これを理解させてアマ チュアレスリングとプロレスのステータスを高めることは可能だと思う。野球、テニス、 サッカー、バレー、バスケットボールなどがプロとして、またプロ化を検討しているが、 アマチュアレスリングもプロレスとの交流を今から検討していかないと立ち遅れてしまう と思う。
 もう一度ギリシアのような古代レスリングの風土、さらに旧ソ連諸国のレスリングに対 する熱い風土、そういう風土を再生させるべきだと思う。これが私の一番の問題意識であ る。今日は笹原会長に私の修論の意図をご理解いだだき、世界のアマチュアレスリングの 抱えている課題、それから日本のレスリングの抱えている課題に対してどういう取り組み 方をすべきか。さらにレスリングのプロ化の可能性、そしてアマチュアレスリングとプロ レスのシステムの交流、環境システムの共有化、そういう可能性について伺いたい。
 笹原会長:今いわれたことは、世界レスリング連盟FILA(International Amateur Wrestling  Federation)も日本も現実に抱えている問題である。それにどう対応するか。世界レスリ ング連盟も、21世紀に向けてレスリングの展望を1986年にローマの総会で決議している。 ここでこれからの対応策が非常に具体的に検討されている。読んで言えることは、世界の 考えていること、日本の考えていることに、かなり違いがあることである。私は世界レス リング連盟の理事から副会長をやり、今年にアトランタの総会で名誉副会長になったばか りである。一貫して世界レスリングがそういう危機感を抱いている。
 古代オリンピックからレスリングは始まり、人間が生み出した最高の精神と肉体とを作 る文化だと信じている。競技者から見てもレスリングは最高の内容のある文化である。レ スリングによって作られた肉体と、精神すべてが、生きていくための価値のある財産であ るからだ。ところで今、どのスポーツも、マスメディアを介して資金を追求せざるを得な くなっている。マスメディアに合わないスポーツはどんどん降ろされている。しかし、一 番大事なことはそういう場合でも文化の哲学を失わないことである。
 われわれも小さい時からレスリングをやってきた。そして全日本選手権に勝て、オリン ピックに勝てと強化訓練させられてきた。しかし、勝つことが先ではなく、基本はエクセ レントな人間の肉体と精神の完成であり、エクセレントな哲学を学習することである。私 の時代は、スポーツは文武両道といって、人間を作る方法、文化であった。それが、だん だんスポーツと体育が同じ言葉や考え方になってしまった。オリンピック・スポーツとし てのレスリングは、昔はカズが少なかったが、今は国際スポーツ連盟が60以上もある。
 オリンピックが、ブランデージ会長が亡くなってからサマランチ会長に代わり、大きく 変わった。情報化時代ということで、オリンピックがマスメディアに載るスポーツをクロ ーズアップせざるを得なくなっている。そういうメディア・バリューの基準がどんどん入 ってくるようになった。これはオリンピック自身、またスポーツ自身、大きな予算を前提 にしているから、必然的なトレンドである。プロとアマの交流も、そうした中から起こっ た。そして現在の私の考えは、プロもアマもクオリティを高めれば本質的な違いはないと 思う。
 オリンピックにアマとプロの問題が長い間あったが、日本の体育協会でもやっと決着が ついたといってよい。プロもアマも違いはない。スポーツの本質的価値は同じである。プ ロだからアマと違うという考えそのものがなくなり、プロもアマも国際的ルールに従えば、 誰でも参加できる。世界レスリング競技は前回から参加しているし、日本の場合もこれか らはオープンでどんな試合にも、アマチュアレスリングのルールに従えば参加できる。
 鶴田:笹原会長ご自身、またアマチュアレスリングの人達がプロレスをどのように見て いるでしょうか。  日本のアマチュアレスリングもプロレスからいろいろ学ぼうとしている。特に体力的ト レーニング、大技などである。今のレスリングは大技が出ないと勝てないルールになって いる。昔は試合時間は15分でしたが、それが12分になり、9分になり、6分になり、今 は1ラウンド5分で、3点取らないと3分間の延長戦というルールである。だから最初に 3〜5点取ってしまえば、終わりである。そこで日本が遅れた理由はタックルで1点ずつ 取るスタイルであったからだ。

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