第7節 世界の格闘技の地域別 変遷史

「1」ベニ・ハッサンの壁画はレスリングには500の技がある。そのうちの約300が ケティ王子の墓に描かれ、すでに高度な技の発達がみられた。格闘技が服属儀礼、鎮魂儀礼、葬送儀礼の身体文化だったため、びっしりと墓の中に描かれた。  
メディネト・ハブのレリーフはエジプトでは兵士たちにレスリングを課した。片足タックルからの攻防は強豪同士の激闘の様子を伝えている。エジプト美術の特徴である左右対称の表現形式を用いている。ルクソール。

「2」ヤール・グレッシュ(オイル・レスリング)ギリシアの格闘技はローマではそれほど受容されなかったが、東方へは大きな影響を与えた。ギリシア文化の伝達は、ヘレニズムにみられるとおり身体文化を重視するものだっただけに、各地に根づいた。ヤール・グレッシュ(オイル・レスリング)を観戦すると、ギリシアの古典性をまず認識させられる。トルコに伝わる審判をもたない格闘技。闘う男としての尊厳を認め合い、相手の実力をたたえる。オリーブ油を全身に塗り合う儀式、土俵入りにも似た踊りを伴い、イスラム以前の遊牧民の信仰を感じさせる。一年中、各地で大会が開催される。試合は攻撃は創造力で考える。革ズボンをはく点でペルシア的で、オリーブ油を塗って闘う様式はギリシア的である。油はズボンの中にも塗られ、立ち技、寝技ともにスリリングで迫力があり、芝生上での遊牧民らしい格闘で、よほど卓越した技術を持たないと攻撃しにくい。性器を握りさえしなければ、競技者の創造力によって、どんな攻撃でもできる。両肩が着地すると負け。トルコが「レスリング王国」として第二次世界大戦前から強豪ぶりを誇ってきたのは、この伝統格闘技の技術が生かされていたと思う。体重制ではなく、身長制で、美しい身体をしたレスラー間で闘われる。勝敗の決定は両雄の判断によってなされるという鷹揚さ、そこにトルコ人の「武士道精神」が出ていると思う。だが、このトルコ式レスリングは、単にギリシアの伝統をそのまま継承する格闘技とはなっていない。たぶん、モンゴル、ペルシアの影響も多分に受けていると思う。モンゴル的なのは、レスラーたちが、試合前に踊り、豊穣儀礼、服従儀礼のジャーマニズム的要素を持ち、一方革製タイツや握手などの仕草、トレーニング方法は明らかにペルシア的である。

「3」朝鮮相撲はわが国の相撲に影響を与えた。サッパと呼ばれる綿布を右大腿部と腰に巻きつけた壮士(力士)が闘う。体の一部が着地するまでの力相撲。立ち合いと土俵がないが、四つ相撲は投げの応酬で迫力がある。3本勝負のため持久力が求められる。プロ興行があり、韓国での人気は高い。

「4」ズルハネは現在のイランにはどんな小さな街にも「ズルハネ」と呼ばれる立派なトレーニング場があるのに気づく。「パフレヴァーン」(ペルシアの騎士)を養成する館をズルハネと言う。服従儀礼をともなう宗教性の強いもので老若をトワズ、夕刻から男たちが集まって、7種類のトレーニングに集団で精を出す。パフレヴァーンは、古来よりペルシアの伝統的な神秘主義をいまに伝え、騎士としての技術を磨き、心身ともに鍛錬する場である。武器になぞられた器具を用いて力技を競うが、その技もズルハネと呼ぶ。重い金剛棒、弓、盾を自在に操り、台の上に両手をついて数十分も腕立て伏せをする。7種類の力技は服従儀礼、鎮魂儀礼の趣がある。正式には革製のタイツを履き、ペルシア特有の力技に興ずるイラン人。その豪快さは日本人も興奮させてくれる。この力技がユーラシア大陸に普及したのは、古代ペルシアの力が偉大であったからである。パフレヴァーンは、「コシティ」という相撲もとる。この相撲はわが国の相撲とそっくりで、イラン、アフガニスタン、中央アジアのソ連、パキスタン、インドなど広範囲にわたって、民族の格闘技として豊穣儀礼の趣を持ちながら、古い時代から行なわれた。紀元前5世紀ごろのインドの「争婚」は、このコシティで決着がつけられたとされる。服従儀礼の印象を受けるが、コシティがどこで発祥したのか不明である。やはり遊牧民族たちの儀礼として、娯楽として伝えられたのである。腰にヒモを巻き身体の一部を着地させるための攻防。コシティは、レスリングとは完全に異なる「相撲」である。しかし興味深いのは、これらのコシティの強者たちは肥満体型でないにしても、筋肉質ではなく、脂肪体質であることだ。持久力を競うところに重点がおかれていたと思う。この力士の体型がモンゴルのボフ朝鮮半島のシムル、そして日本の相撲とも共通 する。格闘技の見方は、宗教性の有無、スポーツ的か武術的か、どんな体型が有利なのか、などを分析することによって、面 白さはさらに広がる。そして、歴史や文化を学ばされることになるのである。

「5」蒙古相撲は遊牧騎馬民族のモンゴル人の、相撲・弓道・馬術を古来より、「もののふの三つの技としてきた。ボフ(相撲)は、ジャーマニズムを彷彿させる儀式をともなう。持久力を背景に、豪快な投げ技の攻防戦は魅力的。7月中旬、首都ウランバートルで開かれる民族の祭典「ナーダム」が見ものである。  参考資料 「格闘技バイブル」「新・格闘技バイブル」「格闘技の文化史」松浪健四郎著。  

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